第32章

「どうしたの?奈々未?」

渡辺芳美は島宮奈々未の様子がおかしいことに気づき、心配そうに尋ねた。

「何でもありません」

島宮奈々未は無理に笑顔を作って答えた。

彼女は渡辺芳美を心配させたくなかった。

「お母さん、急に思い出したんだけど、ちょっと用事があるから先に帰りますね」

島宮奈々未は言った。

「そう、気をつけてね」

渡辺芳美は頷き、それ以上は何も聞かなかった。

島宮奈々未はショッピングモールを出て、タクシーを拾い、海川埠頭へと直行した。

彼女が去ってまもなく、川崎正弘は彼女の行方を突き止めた。

「社長、島宮さんが海川埠頭に向かいました」

川崎正弘は丹羽光世に報告した...

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